構造設計と耐震診断知識の有効利用

阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)


建主との話の中で地震・耐震の話題が出た事がある設計者も少なくないと思います。特に最近は地震が多いですからなおさらです。




特に阪神大震災の被害はひどい物でした。ちょうど私がこの業界で働きはじめた年でもあり、この震災後に構造計算が厳しく調整された記憶があります。


1995年1月17日午前5時46分 兵庫県南部を中心とした地域にマグニチュード7.3、震度は6、一部の地域では震度7を記録しました。


死者は6000人以上、そのうちのほとんどが建物の下敷きになった事が原因で死亡しました。この地震による被害をまとめた多くの被害報告書が発表されています。その中から建物被害の概要を整理してみます。
  • 1981年以前の木造軸組み工法は非常に被害が大きかった。
  • 1981年以前の建て物は工法等に関係なく全般的に被害が多かった。
  • 木造では軸組工法が被害が大きく、2×4工法、その他の木質パネル工法の被害は少なかった。
  • 鉄骨系プレハブ住宅、コンクリート系プレハブ住宅等のわりと新しい工業化住宅は被害が少なかった。
  • 壁式コンクリート住宅は被害が非常に少なかった。
  • 1981年以降の鉄筋コンクリート造、重量鉄骨造の建物は被害の数は多くなかったものの、被害を受けた物はバランスの悪い建て物などかなり無理をした設計のものが多かった。
  • 壁量の少ない建て物の被害が目立った。
  • ピロティー形式の建て物の被害が目立った。
  • 鉄骨造の柱脚の被害が目立った。
  • 鉄骨造の梁柱の接合部の被害が目立った。
  • RC造の柱梁接合部の被害が目立った。

このような被害報告を見ていていくつか感じた事があります。


●木造軸組工法は耐震性能が悪いの?

「木造軸組工法」が阪神大震災でこれだけ被害を受けたという事実を見ると「工法として弱いのか?」と考える人もいると思います。なぜこんなにも被害を受けてしまったのでしょう?


軸組工法の中でも特にひどかったのが古い木造住宅です。被害を受けた建物は壁の少ないものが多く、壁の中に筋交いが入ってないものや、筋交い自体の断面が小さいものが多くありました。


また屋根の材質が台風でも飛ばされないように重量の重い瓦屋根が多く、それが地震力を大きくし建物が倒壊してしまいました。


特に古い建物は腐食が進んだものや、シロアリの被害があった物など耐久性の面での問題がありました。


つまり木造在来工法の被害が多かったのは、ちょっと乱暴な言い方をすれば

古い建物=木造在来工法

と言って良いほど、古い木造在来住宅の絶対数が多かった事が、一番の理由にあげられると思います。


もちろん、新しい木造軸組工法の建物にも被害はありましたが、それらはバランスの悪い物や接合金物の不備が多く、無理のない設計と丁寧な施工をしていれば倒壊を防げた物が少なくありませんでした。


つまり、わりと最近の軸組工法においては耐震性能として他の工法に特別劣るという事ではなく、設計者と施工者の仕事の内容による影響が大きかったと言う事だと思います。




●1981年

1981年という言葉が何度も出ています。ご存じの方も多いと思います。この年は「新耐震設計法」が制定され耐震基準が大幅に変更になった年にあたります。


この「新耐震設計法」以前に設計された建物が工法や構造に関係なく全般的に被害を受けていることがわかっています。今の基準が昔に比べると非常に厳しくなっている事がわかります。


1981年以前の建物は、工法や構造に関係なく注意する必要があります。もし今あなたが暮らしている住居が1981以前の建物であれば、耐震性能が最近の建物に比べて非常に劣っている可能性があります。




●ピロティー

この言葉もこの地震で注目される事になりました。ピロティーとは一般的に集合住宅の1階などの壁のない開放的空間をさしていますが、構造的には少しニュアンスが違います。


構造でいう所のピロティーとは上階に比べて下階が極端に剛性の低い状態、上階に耐震壁があるのに下階で壁がなく柱梁のみになるような構造形式をさしています。あくまで上下の剛性の関係が重要です。


このような構造は上階の耐震壁の影響で下階の柱の軸力変動が大きくなる傾向がありますが、この軸力変動に耐えられる柱断面にしなければいけません。


このような検討を震災以前は特に指導さられておらず、設計者の判断で設計されていました。しかし、これらの検討を十分にしていなかったためにピロティー階の柱が壊れ、その結果倒壊に至った建物が続出してしまいました。


そして、この震災後、ピロティー形式の検討方法が決められ、柱の検討を行うよう指導されるようになりました。




●接合部

この被害が、そららく最も指針、基準、構造材等の変化のきっかけになったのではないかと思います。


鉄骨造においては、SN材、BCP・BCR材、溶接低減撤廃、柱梁耐力比の検討、柱脚設計ルートの規定。RC造では、柱梁接合部の検討、付着定着の考え方。木造では接合金物の検討方法。


この震災後から接合部の検討が厳しくなり、この接合部で部材断面が決定することが非常に多くなりました。基準等が変わったばかりの時は柱断面がどうしても大きくなり、デザイナーには

「何だこの断面は、大きすぎるだろ。小さくしろ!」

と何度も言われ、その説得に非常に苦労した記憶があります。最近は落ち着きましたが。




●壁量

これはみなさんもご存知だと思います。やはり今回の地震でも壁量の多い建物は被害が少なく、壁量の少ない建物は被害を多く受けました。


低層の建物で耐震性能を上げようと思ったらとにかく壁量を増やす。この地震でも壁式構造は強かった。






ここまで読んでいただければ、どういう事に注意すれば大地震でも建物が壊れづらくなるか見えてくるのではないでしょうか。阪神大震災で壊れないようにするためには、震災で壊れた建物と同じ建物を作らない事です。ですからまずは震災を知る事です。
  • 平面、立面のバランスがいい建て物にする。
  • 低層建物は壁量を増やす。
  • 接合部・溶接部をしっかり設計、施工する。
  • 古い建物で腐食などで耐久性に問題がある場合は補修する。
  • 1981年より前の建物は積極的に耐震診断を考える。
このように基本的なことに注意して現行基準で設計された建物であれば再び同じ地震がきても大丈夫です。古い建物の場合は竣工年度や壁量・バランス・接合部を見直す必要があると思います。


新耐震基準の建物で倒壊したのは1981年以前の建物に比べると、少なかった。逆に言うと、新耐震基準で設計されていて倒壊した建物は、設計上の検討不足、又は施工上の問題があった可能性があります。


これは人ごとではありません。自分が設計した建物で犠牲者が出るか出ないかは、まさに設計者と施工者しだいと言ってもいいでしょう。


ただし施主の協力と理解無しに良い建物はつくれません。「安くしろ!」ばかりを言う施主では良い業者程離れていきます。施主自ら学び良い建物をつくりたいと言う意識が被害を小さくします。


震災後、かなり時がたった今でも、まだ少しづつ基準が厳しくなっています。


このサイトにくる設計者にはぜひ「自分の設計した建物では絶対犠牲者はださない!」というあたりまえの気持ちを忘れないでほしいと思います。



追記------
震災におけるコンクリートマンション内の死者は数十人程度だったそうです。この事から木造戸建住宅内での死者が圧倒的に多かったと予想されます。個人的には・・・
●古い戸建の非耐震住宅の早急な耐震診断の必要性
●木造戸建は新築住宅であっても構造計算を行った方が良い
と考えております。最も人々が長く生活するのが戸建の住宅です。そして死者が多かったのも・・・。
にも関わらず構造計算を行わないという現状は、まさに建築業界の怠慢・施主の無知が原因ではないかと思います。

Posted by tanaka-kozo at 2005年10月10日 10:06 | コメント (2)
この記事に対するコメント

ご担当者様
 ご意見概ね賛同いたします。基本に則ってしっかり設計しなくてはならないと思います。
 しかし、特に、木造建築(2×4、軸組、パネル式問わず)の場合の継ぎ手を定量的に評価できない点が構造計算を難しくしているものと思います。例えば、完全剛もしくはヒンジ結合なんてのは世の中にあり得ないため、バネ定数、減衰定数を設定しなくてはなりません。幅をもって動的に計算したら、変形量など倍半分の結果が容易に出力されるのではないでしょうか?
 ある意味、鋼構造の高層ビルより木造建築の耐震計算のほうが難しいのではないでしょうか?

Posted by: 元土木技術者 at 2006年09月17日 10:45

コメントありがとうございます。

木造は難しいですね。あとRCなんかも剛性を適切に評価するのは難しいです。

木造の場合、既存だけでなく、新築でさえ構造計画がめちゃくちゃで構造的に問題のある建物はたくさん存在します。それは構造的な視点からその建物を見ていないことが一番の問題なのだと思います。

構造解析を精度良く行わなければいけないという事、以前の問題です。

計算上の精度云々より、構造的な視点で建物を見ずにほったらかしになっている現実が問題と思います。

Posted by: 田中@管理人 at 2006年09月21日 09:31


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